他山の石 「五分勝ちを上とす」 茄子作 九

「主よ、主よ、と言う者がみな天の御国にはいるのではない」
<マタイ 七 ・21>。
  武田信玄は言ったものでした。「負けるはずのない戦きを負け、滅びるはずのない家が滅びると、ひとびとはみな天命だ、運命だと言って片づける。しかし、私は天命だなどとは思わない。みなヤリカタが悪いからだと考える」と。
また、兵法についても合理的で、「小さな備えをよくよく工夫して立てる。そうすれば、大きな備えがやりやすい。万事は小さなことから始め、次第次第に組み立てて、大に及ぼすようにせよ。大より小へは、やりにくい」としました。
 そのくせ、いざという時には「五分勝ちをもって上の勝利とし、七分も勝つのは中の勝利、十分勝ってしまうのは下の勝利だ」
なぜ?と聞かれて、信玄は答えて曰く。 「五分の勝利にとどめておけば励みが生ずる。七分も勝つと怠りが生ずる。十分に勝ってしまおうものなら、一番おそろしいおごりが生じてしまうものだ」と。
 こうして、信玄は常に六、七分の勝ちを越さず、好敵手の上杉謙信をして「この点、自分は信玄に及ばない」と感嘆させました。
 無責任な敗北主義者や、功名手にはやって有頂天になり、一番肝腎な謙遜を失っては高転びする張子の虎には、妙薬の佳話です。

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