他山の石 「半兵衛の手足」  (10)  茄子作 九

 竹中半兵衛と云えば、秀吉に仕えた智謀の名将ですが、座す時はいつも足の指を交互に動かし、.寒中には手をこすっていました。
 主君の前に出る時も向じでした。いやしくも主人の前で、逸楽のために手足を自由にするのは、はなはだ無礼と云われるかも知れない。
 けれども、士たる者は多少作法からはずれても、手足がなえたりしびれたりして、いざという時の用にたたないことのないよう心がけておくのだ、と申しました。
 また、息子の左京に軍談を語り聞かせていると、まだ幼い左京が座を立って、どこかへ行き、暫くして帰って来たので、なんで中座をしたのか、と叱ったところが、.左京は小便をして来ましたと答えます。
 半兵衛は怒り、なぜ、この座敷で放ってしまわぬ。わが息子が軍談に聞き入り、座敷を汚したと云われることこそ、わが家の面目ではないか、と嘆じました。
 また、ちかごろは刀をはずして別のところに置いたり、他人の刀と一緒くたに置くようになっているが、なんとも心がけのないことだ。
同じところに置いておけば、急の時に取り違えて間にあわぬこととなろう。少くとも、人の刀が横にに寝かしてあったならば、わが刀は立て掛けて置くとか、人の刀のあるところを避けて置くとかすべきである、と語りました。
彼は、まるで女のような容貌の持ち主で、戦いにのぞんでも、猛威なところは少しもなく、いかにもおとなしい馬にまたがっては、静まりかえっていました。ために、人々は戦わずして、すでに勝っているような気がしたとのことです。これもさきのような平常細密な心がけあってのことで次の聖書の一節の他山の石となりましょ
う。「小さい事に忠実な人は、大きい革にも忠実であり、小さい事に不忠実な人は、大きい事にも不忠実です」<ルカ一六、・一〇>、

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